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2011年2月27日

宮部みゆき「蒲生邸事件」を読んで

二・二六事件が舞台となっている、宮部みゆきさんの「蒲生邸事件」の感想を、2月26日に投稿しようと考えていました。記事を書くにあたり、本を取り出してきたのですが、あちこちと拾い読みしているうちに、かなりの部分を読み返してしまうことになり、、、翌27日の投稿となってしましました(^^; 読み返してもまた、興味深く読めました。

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★以下の記事は、ネタバレの内容を含みます。これから読む予定がある方は、ご注意ください。

タイムトラベラー平田に連れられて、二・二六事件が起きようとしている昭和11年にタイムトラベルした孝史が主人公。魅力的で主張をもった他の登場人物とは異なる孝史と一緒に、私は、いろんなことを学んだように感じる。

特に、印象に残っている部分は、三つある。

一つめは、「歴史の細部は変えられても、歴史そのものは変えられない。そんなことをしようとしても、それは所詮“まがいものの神”でしかない」という、平田の言葉だ。

よくない出来事が起こる前に戻ることができたら、その出来事が起こるのを防げるのではないかと考えていた私は、とても意外な言葉に思えた。大きな事件、大きな事故。それを防げたとしても、別の場所で、そういう事件、そういう事故が、起きるのだという。この時代にそいう出来事がどこかで起こるのは、変えられないのだと。

時代が作り出しているということを、読むにつれ、理解したように思う。例えば、天下統一が必要な時代に、最初に志した人物が倒れたとしても、次とか、その次の人物が、天下統一を成し遂げるように、その時代が必要とした出来事は起きるんだなって。歴史は変えられないっていうけれど、この言葉を、幅と奥行きをもって、理解できたように思う。

二つめは、二・二六事件が起きた昭和11年と、現代との違いだ。とくに、働くことの意味についての行(くだり)は、自分を省みるには十分だった。

「蒲生邸事件」のこの部分には、しおりを挟んである。いつも、ここを見る。答えが書かれているわけではないけれど、自分の人生をより満足できるものにしていくためのヒントが書かれているように、私は感じている。

 歩いてゆくうちに、自分の暮らす「現代」と、何から何までちがっているというわけではないのだと、孝史は考えるようになってきた。…略…
 違っているのは、スイッチひとつでできないことがまだまだたくさんあって、それをすべて人間の手でやっているということ。…略…
 …略… それでも働くことの意味が、孝史のいる「現代」よりも、もっとずっとずっと素朴ではっきりしていただろう。煙草一個を売って釣銭を受け取ることにも、それにふさわしいだけの重みがあったのだ。
 …略… スイッチポンで事足りる時代に、「人間」でなければ出来ないことは、ごく限られている。「人間」である孝史を求めてくれる仕事を、ひいては人生そのものを見つけることは難しい。
引用元: 蒲生邸事件 P.491-492、宮部みゆき著、文春文庫

三つめは、浅草の雷門だ。

戦中・戦後、空襲や疎開でちりぢりになったり、連絡がとれなくなったりした人々が、生きていたらきっとここに集まろうと約束した目印の場所が、雷門だったのだという。「蒲生邸事件」は戦前の物語であるから、主人公の孝史も、昭和11年で出会った女性ふきも、それを知らないのだが、二人は、「現代」での待ち合わせ場所として雷門を選んでいる。戦前、戦中・戦後、現代とがつながる、こういうプロットがいいなと思った。

次に雷門に行く機会があったら、雷門が見てきた時代に、ちょっと思いをはせてみようと思う。そして、残っているものと変わっているものを見て感じてみたいと思う。

     ◇     ◇     ◇

栗本薫「グインサーガ」は、未完のストーリーになった。私の周りには、グインサーガを読んでいた先輩が二人いる。もし誰かが「グインサーガ」の続きを書くとしたら?それは宮部みゆきをおいて他にいないと、先輩二人は言う。続きが書かれるのか、誰が書くかはさておいて、宮部みゆきさんの力量と、栗本薫さんの力量。それを考えると、先輩お二人の言葉には、とってもうなづける。

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